港の埠頭で、記念写真を撮っている女の子たちがいた。
一人がカメラを構えて、正対して並んでいる他の子たちを写真にとらえようとしている。背面に映された姿を確認しながら、慎重にカメラの向きを調整して、シャッターを切った。
撮り終わって、急いでのディスプレイを見た女の子はしばらく首をかしげていた。
彼女の顔は、笑みを崩さないままに困った様な表情を浮かべている。ぶれてしまったのか、露出が合わなかったのか、想像したものと違う写真が取れてしまったようだった。でも、失敗したからもう1度と声をかけてはいない。
撮り直そうか迷っているようだった。多分、失敗したといえる程の欠点があるわけではないのだ。少し明るさが合わないとか、ピントの合う位置がちょっとだけずれた、といったような。
でも、記念の写真はきれいに取りたいのだろう。後で見返したときに、ぶれていたりしたら残念に思うはずだから。迷うのなら撮ればいい。写真は、今を切り取るためにある。自分の目で見た景色、感じた明るさをそのまま記録するのもカメラに与えらえたの使命なのだ。どんなに長い時間がたった後でも、写真に写された光景が記憶の底から、かつて過ごした日のことを思い出させることだろう。
そのために君は、今、写真を撮っている。
だから、思った通りの写りでないのなら、もう1回、撮っておこう。その写真は、今日のことを鮮明に思い出せる1枚となるのだから。
通り過ぎた僕の背後で女の子たちの歓声が聞こえた。次は、どんな写真を撮るのだろうか。