跳ねるように駆け抜けて

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跳ぶように走っていく女性 平日と休日では、時間の長さが違う。物理学には反するが、心理学では正しいことだろう。休日の歩道では、人がゆっくりと歩きながら流れていく。まるで、時間が伸びたように。
 そんなゆったりとした時の流れの中を、急いで走っていく女の子とすれ違った。
 ゆっくりと歩く人の間をすり抜けて、彼女は駆け抜けて行く。走るというよりは、跳ぶように。ヒールの高い靴で走ると転んだりしないだろうかと、心配になった。動物のように踵を上げて走っているようなものだから、高く跳ね上がる事が出来るのかもしれない。その姿が、インパラのようになんだか綺麗だ。茶色いコートがそういったものを、想像させたのだろうか。
 フォームが整っているのだ。
 提げ袋を掛けるために挙げた腕が、速く走るために腕を強く振る美しいフォームと同じ姿になっている。横へ流れた髪、バランスをとるために伸ばした反対側の腕が風を切りながら進んでいる様で美しい。
 どうしてこんなに急いでいるのだろう。
 どこに向かって駆け抜けていくのだろう。
 ただすれ違うだけの無数の人とは違って、心に強い印象を残していく人には想像を巡らせてしまう。
 彼女には、どうしても間に合うようにたどり着きたい場所があるのだ。もう、心はその場所へ飛んで行ってしまっている。跳びあがった姿は、心に追いつこうとする体のありようを目に見える形で表しているのかもしれない。
 前に伸びた足が地面をとらえて、再び彼女の体を前へと押し出した。高く跳んで。
 その勢いで感じた風圧が、顔の上にかすかに残る。それもすぐに薄れていくだろう。彼女は一陣の風だ。突然やって来て、過ぎ去った後には何も残らない。
 そこを通り過ぎて行ったという記憶以外は。