イヤホンをつけながら

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イヤホンをつける女性
 駅のコンコースへとつながる広くて長い通路の上を、人が波になって進んでいた。僕の乗った流れのすぐ横には、反対へと流れていく波がある。
 色々な人がすれ違って、後ろへ去っていく中で、耳に手を当てている人が僕の目を引いた。手からコードが垂れ下がっている。彼女はイヤホンを耳に当てて慎重に位置を決めると、ゆっくりと手を離した。
 以前、この記事でイヤホンを外す仕草を描いた。外す動作があるということは、つける動作もあるということでもある。外すときは、丁寧にする必要はない。コードを引っ張ったら、それでおしまい。でも、つけるときはそれではうまく行かない。イヤホンが耳にはまる深さとその角度が影響して、ほんのちょっとの違いでも、快適な音楽環境が得られないからね。
 イヤホンをつけて歩くというのは、自分の世界に入って行くことではないだろうか。自分が聞いている音は、他の人が聞いているものとは違うのだから。
 周囲の人の声、足音、車の音、スピーカーから流れるアナウンス、列車の通過する音。
 そんなものから切り離された中に身を置いて、歩く。そんなことをして危なくないのか心配にもなるが、反面、それは心地よいことでもあるだろう。混雑して人の進み方が遅くなっても、信号がなかなか変わらなくても、その間の時間をお気に入りの曲が紛らわせてくれるに違いない。
 時々イヤホンから音が漏れていることを注意されて怒る人がいるけど、それは自分の世界が壊されたような気になるからなのではないか、と思う。
 2つの人の波は進み続け、僕は彼女とすれ違った。彼女はイヤホンをつけた後も変わりなく歩いている。
でも、彼女の足取りが少しリズミカルになった気がした。