浴衣姿でセルフィーを

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手を伸ばして自撮りする浴衣姿の女性 花火大会の会場に向かう人の列は絶え間なく流れていた。浴衣姿の人たちが幾重にも重なって目の前を通り過ぎて行った。突然、途切れた人の流れの合間に手をピンと伸ばして、立ち止まっている女の人が見えた。手にはカメラが持っていて、彼女は自分へと向いたレンズの方へ真っ直ぐに視線を送っていた。
 浴衣を着るという出来事は、夏の間にしか起きない特別な事であろう。浴衣を着て、花火を見に行く今日は、特別な日なのだ。彼女が記録に収めようとしている浴衣姿は、年に数回しか起きない希少な出来事なのである。次に彼女が浴衣に袖を通すのはいつのことなのだろうか。
 水平まで上げた腕から袖が垂れ下がって、風に吹かれてかすかに宙を泳ぎ、帯から裾までが遮られること無い1本の線として伸びていた。手を大きく伸ばした姿が浴衣にいくつもの綺麗な曲線を描かせて、美しいという印象を与えていた。

 日が傾いて、陽の光もだいぶ柔らかくなってきた。この年の夏を代表する、いい写真が撮れるだろう。
 ほんの数秒、彼女は静止したままで、カメラに笑顔を送っていた。
 やがて、伸ばした手を下ろしてカメラを顔に寄せた。背面に映された、撮ったばかりの写真をちらりと見ると、再び歩き出して人の流れに乗って去って行った。