繁華街には大勢の人がやって来ていた。それぞれが自分の目指す場所に向かって歩く。通りに並んだ店舗を見ながら、またはまっすぐ前を見ながら。そんな中で、下を見ながら歩いている人がいたら、それは歩きスマホに違いない。
前からスマホを片手に持った女の子が近付いて来た。長い黒髪を肩から下げ、早い足取りで歩いている。もう一方の手にはドリンクを持っていた。
なんてことだ。歩きながらスマホを見つつ、同時にジュースを飲んでいるとはね。
彼女が周りに視線を送る気配はない。画面を見たまま、真っすぐに進んでいる。僕はぶつからないように、少しだけ彼女と距離を取った。
歩きスマホでもぶつからないよ、という人がいるかもしれない。その人たちは、今まで他の人にぶつかったり、いきなり穴に落ちたり、電柱に激突したことがない人だろう。
でも、それは違います。
周りの人がぶつからないように避けているだけなのです。
歩きスマホの人の気持ちがわからないでもない。何もしないで歩いているだけの時間があるのなら、メールを読んだり、動画を見たりすることが時間の有効活用になるじゃないか、って。でもそのためにつまづいて転んだりしたら、怪我したり、余計な時間を使うことになるだろう?
彼女は顔を一度も上げずに、歩き去っていった。やっぱり、君、歩きスマホは危ないよ。